細胞の生成と免疫力

- マリヤ・クリニック・ニュース 2021.3(No.311)より -

新型コロナウイルスに対するワクチン接種が始まりました。ワクチンについて、一般人の目から見て、なかなかわからないことが幾つかあります。また、イギリス型、南アフリカ型、さらに新しい変異株が出ているという情報があり、それらには現在のワクチンでは効かないものがあるという情報もあります。高齢者には効かないという情報もありながら、高齢者優先で接種をするという政府の方針もあります。情報が錯綜している中で、政府や医師会への不信感が聞こえてきます。政府や医師会の言うとおりにしろ、と言われても、障害が起こったら苦しむのは私達であり、確率は本人にとっては常に障害が起こるか起こらないかの50%です。慎重になるのは当然です。

実は、当院の検査でも新型コロナ感染者が見つかっています。そのうちの一人、糖尿病の持病のある60代の女性が1月に自宅療養となりました。保健所からの指導は自宅療養というだけで症状の変化を定期的に報告するだけでしたが、このMCニュースを読んでいて、ビタミンCと亜鉛が大事だと思い、家にあったビタミンCのサプリメント1g40包を8日間程で摂って、治ってしまったと報告してきました。味覚・臭覚はわからなくなったのだけれど、亜鉛を摂取し続けたら数日で回復したそうです。本当に喜んでいました。

1. 細胞の生成とmRNA

私たちの身体は約60兆個の細胞からなっています。最初は一つの受精卵から分裂を繰り返して次第に分化して、いろいろな器官の細胞が作られていくのです。それらの細胞の中心に核という膜で囲まれたものがあり、その中に46本の染色体があります。これは父親から受け継いだものと母親から受け継いだものが対になっており、そのうち44本は常染色体であり、残り2本は性染色体で女性はY染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っています。

その染色体を構成しているのはDNA(デオキシリボ核酸)です。このDNAは長いひも状になっていて、ひとつの細胞に畳み込まれているDNAを伸ばすと約2mにもなっており、また二重のらせん構造です。二重らせんを構成する鎖はそれぞれリン酸と糖がつながって基本構造を形成し、その上に4種類の核酸塩基が並んでいます。この4種類の核酸塩基が遺伝情報に関係する重要な働きを持ち、DNAの4種類の核酸塩基の配置はタンパク質を作る設計図であり、その組み合わせによって異なるタンパク質が作られます。そこで、タンパク質を作るDNAのことを遺伝子と呼びます。

DNAは細胞の核の中で情報の蓄積と保存をし、RNA(リボ核酸)はその情報の一時的な処理を担うので合成や分解される頻度は高く、RNAは不安定であるとも言われます。RNAにはmRNA(メッセンジャーRNA)、tRNA(トランスファーRNA)、ncRNA(ノンコーディングRNA)、リボザイム(触媒RNA)、その他があります。


細胞の核の中に存在する遺伝子のなかで、ある刺激を受けて活性化した遺伝子からmRNAと呼ばれる一本のひも状の物質が作られます。この工程は「転写」と呼ばれるプロセスで、基になる遺伝子(DNA)の情報を読み取ってタンパク質合成のための情報に置き換える役割をしています。次に、これらのmRNAは核の外にあるリボソームと呼ばれるいわば「タンパク質合成工場」に運ばれて、そこでmRNAの情報が読み取られ、その配列に相当するタンパク質が作られるのです。この工程は「翻訳」と呼ばれます。

2. 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン

新型コロナウイルスの表面にはスパイクタンパク質(突起物)があって細胞に付着します。ウイルス自体を接種するのではなく、このスパイクタンパク質に対する抗体を生成できれば、安全に免疫を誘発することができます。今回のmRNAワクチンは、このスパイクタンパク質に対する遺伝子材料mRNAを保護的脂質シェルに入れて接種します。脂質シェルは、細胞の周囲構造に似ていて壊れ易いmRNAを保護します。

ワクチンを接種すると、ワクチンのmRNA(スパイクタンパク質形成指示体)がヒト細胞と融合し、細胞の中のリボソームに進みます。リボソームは、mRNAの情報によってタンパク質を作り、このタンパク質が細胞から漏出して、ウイルスと同じようなスパイクを形成します。免疫系は、スパイクタンパク質を認識すると、それに反応して抗体を生成します。この反応によって副作用が生じることがあります。抗体は、以後の同じスパイクの形のウイルス感染に備えて反応を記憶します。その為に、同じスパイクの形の新型コロナウイルスに感染すると記憶がよみがえり抗体を作って免疫が働きます。抗体を作るために働いたmRNAは、体内で分解されるのでワクチン接種を受けた人の遺伝子には組み込まれないことになっています。(抗体については、MCニュースの2021年1月号をご覧ください。)

3. 細胞が造られるための素材

人の細胞は水66%、タンパク質16%、脂質13%、炭水化物0.4%、無機物4.4%、核酸が微量という組成でできています。植物の細胞は組成がかなり異なり、タンパク質・脂質・無機物が少なく、炭水化物が多くなっています。植物を摂取するだけでは、人間にとって脂質や無機物が不足します。タンパク質が重要なことは当然なのですが、脂質やミネラルが不足する人も多く、ダイエットや偏食、そして吸収力が弱くなる高齢者には重要な成分です。肥満は、炭水化物、特に糖分を多量に摂ることによる中性脂肪の過剰な蓄積が主な原因であり、炭水化物などの代謝(エネルギーに変換)に必要なビタミンやミネラルが不足していることも原因です。

細胞膜が弱いとがんの転移が進み、感染にも弱くなりますが、その細胞膜の主な構成成分はタンパク質とリン脂質です。リン脂質は、水と油の両方をなじませる性質(両親媒性)があり、血液中に存在する脂質の一つで、体内で脂肪がエネルギーとして使われたり蓄えられたりする時にタンパク質と結びついて血液中を移動します。リン脂質にはいくつかの種類があり、よく知られているものがレシチンです。原料によって大豆レシチン・卵黄レシチンなどと呼ばれますが、リン脂質を含む製品全体を総称してレシチンと呼んでいる場合もあります。レシチンなどのリン脂質が不足すると、細胞膜の正常な働きを保つことができなくなったり血管にコレステロールがたまったりするなど、動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病に繋がる症状を引き起こします

ビタミンやミネラルは、素材を細胞に形成し活動させることを補助する酵素としての働きを持ち、不足すると細胞の活動や維持が損なわれ、健康を害していくことになります。植物に必要な栄養素は、窒素・リン酸・カリウムと言われ、窒素はタンパク質を合成する原料であり、リン酸は植物の遺伝情報の伝達やタンパク質の合成などを担う核酸の重要な構成成分となり、カリウムは葉で作られた炭水化物を根に送り、根の発育を促したり、植物を丈夫にして病気などに対する抵抗力を高めたりする働きがあります。しかし、最近は微量ミネラルが必須なことがわかっており、また美味しくするためには、酵素を多く含む有機肥料が必要なこともわかってきました。

ところが、はるかに栄養素やビタミン・ミネラルが必要な人間が、エネルギー源としての炭水化物の摂取だけで済ませてしまっていることが多いのです飲酒や喫煙をしていれば、身体はそのストレスの対処のために多くの働きをします。過労や睡眠不足も同様です。基礎疾患を含めて何らかの疾病に罹っていればその対応のために免疫系はかなり働いています。また、高齢者は消化吸収力が衰えているだけでなく、タンパク質などの再生が悪くなっているので、良質で消化吸収の良いものを若い人よりも多く摂取しなければなりません。栄養補給は木を組んだ桶のようなものであると伝えました。一つの木枠の長さが短ければ、その分までしか中身は入りません。栄養素が十分に身体に補給されてこそ、身体の免疫力が十分に働くのです。社会では労働環境の改善が大事だとされ、それが十分に確保されないと生産性が悪化し、従業員の健康が損なわれ、事故や欠員が常態化します。人間の身体も酷使したら、立ち直ることができなくなります。

4. 分子整合栄養医学と他の医学との違い

マリヤ・クリニックはむろん現代医学を採用して診療や予防接種を行っておりますが、私達はそこに分子整合栄養医学(Orthomolecular Medicine)を加味しております。これはノーベル化学賞を1954年に受賞したライナス・ポーリング博士が始めた医学で、生物を構成する分子の乱れが病気の発症に関与しているとの研究から始まった医学です。身体にはホメオスターシス(生体恒常性)が働いていて、生体の内部や外部の環境因子の変化に関わらず恒常性が保たれるという機能で、健康維持に最も大事なものです。現代医学が行う手術や薬剤などの治療も、このホメオスターシスに依存しているのです。ホメオスターシスは、体温や血圧などはもちろん病原菌やウイルスに対する免疫にも関わり、傷の修復も依存します。私達の尊敬するアブラハム・ホッファー博士は、この考えに基づいて精神や神経の働きも至適栄養と環境の中で治癒されていくという分子整合精神医学を唱えました。

現代医学は、これに反して科学の力で治療をしようと努力を重ねています。しかし、実際にはいくらワクチンを開発しても、身体の免疫力である抗体に依存しているのです。ところが、その抗体を作りだすための至適栄養は考慮していないのです。個人の至適栄養は標準化することはできません。男女、年齢、体格、活動、体調、遺伝素因、ストレスの状況、その他多くの要因によって栄養の必要量は変わってくるのです。例えば、1月号で説明した免疫系の中心である白血球の数は、基準値3500~9700/μLとされていますが、感染すると50,000/μLにもなり、それを超えると白血病や敗血症その他の病状が予想されます。その白血球は、毎日1000億個程度作られ、感染があるとその何倍もの量が必要になるわけです。

手術をすると筋肉が衰えて歩けなくなるという人が多いのですが、短期間入院するだけで歩けなくなるのは、手術の傷を修復するために白血球を含めた多くのタンパク質が必要とされ、食事による供給が十分でない為に、筋肉を分解してタンパク源とするからです。院長は、がんの手術の際に、この食事では必要なタンパク質を確保できないと考え、多くのサプリメントを持参して急速な回復をしました。

5. 免疫力強化のための至適栄養は自己管理が必要

マリヤ・クリニックで管理栄養士が院長の処方に基づいて個別丁寧に検査数値や治療法の説明そして栄養指導をしているのは、個体差だけでなく、状況や体調により必要な栄養素の量や種類が違ってくることを身に着けてほしいからです。我慢強い人が重症化する傾向があります。目的志向、仕事優先の人も注意が必要です。無理をするからです。一病息災と言いますが、身体が弱く無理をすると動けなくなる人がかえって長生きすることが多いのは、無理や我慢が身体のホメオスターシスに過剰な負担を強いて、免疫力の限界を超えてしまうのを悟ったからでしょう。

腸が免疫力にとって最も大事な器官であることは繰り返して説明してきました。便秘や下痢は間違いなく免疫力を低下させます。腸の蠕動運動はやはり筋肉が衰えると鈍り便秘になり易く、人前や仕事中だからと便意を我慢すると悪化します。食物繊維や乳酸菌も大事ですが、肉食や冷凍食品などに偏った食事もよくありません。寒さで身体が硬直すると腸の働きを低下させます。歳を取ったらお風呂にゆっくり浸かり、お腹を丁寧に揉むことも大事です。肌の艶や張りもチェックしてください。シミが目立つのはビタミンC不足です。傷の治りが悪いのは亜鉛が不足しています。爪の状態で確認できます。肩が凝るのはビタミンB不足かもしれません。ご自分の症状と体調を細かく管理栄養士に相談して、自己管理に役立ててください。