- マリヤ・クリニック・ニュース 2020.8(No.304)より -
新型コロナウイルス感染者が増え、皆さんも不安が増えておられるかと思い、今回はコロナウイルス対処についてまとめてみます。
A.ウイルスとは
細菌は単細胞で大きさは通常1ミリの千分の一(1μm)ほどですが、ウイルスは細菌の五十分の一と非常に小さく、タンパク質の外殻の中に遺伝子をもっただけの微生物です。細菌は栄養と水があって環境に対応すれば増殖できますが、ウイルスは生きた他の細胞に寄生しなければ増殖できません。
細菌は抗生物質で対処できますが、ウイルスには抗生物質は効きません。抗ウイルス剤も開発されてきていますが、長らく研究されてきたインフルエンザ・ウイルスはタミフル、ゾフルーザ、リレンザなど増殖を抑える効果があるだけで、ウイルスが増えてしまってからでは効果は期待できません。つまり、長く治療研究が進められているインフルエンザ・ウイルスでさえ特効薬がない状況では、新型コロナウイルスに効果がある薬は、数年は期待できないと思われます。
ワクチンがインフルエンザに有効ですが、インフルエンザ・ウイルスは変異するので、予想されたウイルスの型でないと効果が薄くなります。ノーベル賞の山中伸弥教授によると、新型コロナウイルスの遺伝子は少しずつ違いがあり、A、B、Cの3つの型に分けられるが、更に変異を続けていると報告されています。ワクチンの開発には時間が掛かりますが、開発されたワクチンが効かないように新型コロナウイルスが変異している可能性も大きいのです。
これまで感染して回復した人たちは、以下の原因があったと思われます。
① ウイルスより体内の免疫細胞が優位だった。
新型コロナウイルスの特徴は潜伏期間が14日程あり、その間にウィルスが増殖して基本的な免疫機能が低い人には大きなダメージを与えるので、早期発見の効果が大きかったのでしょう。ウイルス感染から回復するには、ウイルス数に対抗する免疫細胞が体内で優位である必要があります。
② 患者さん本人の栄養素の貯えが十分だった。
ウイルスが増殖したら、対応する治療薬はなく、その弊害である酸素供給量の減少を補ったり、炎症を抑えたりした上で、本人の免疫力に頼るしかありません。次々に増殖するウイルスに対して、体内でも次々に免疫細胞を造り出し、ホメオスターシスを維持する体力・栄養素が必要となります。栄養医学の観点からは、消化吸収力の衰えている時には、体内に保持している栄養素の貯えと吸収力の良い栄養素の補給がカギとなると思われます。
③ 治療が適切かつ、十分だった。
強い感染症に罹ると免疫細胞は優先的にその対策に関わる為、患者さんが持っていた疾患への働きが弱くなり、急激に体力を失います。そのようなことを複合的に対処できる最先端の治療環境で対応されるということは、患者数が多い状況では困難なものとなってしまっています。
患者本人の免疫力が低くインフルエンザワクチンを接種していても感染する人が多くなっていると院長も指摘しています。免疫力について、しっかりと理解し、強化する必要があるようです。
B.免疫システムについて
免疫とは、身体を病気から守る仕組みのことです。細菌やウイルスと戦うのですが、段階に分かれており、次第に強固になっていきます。
1.マスクや消毒などによる体外の感染対策
2.皮膚、粘膜、唾液、涙、線毛などの物理的・化学的バリア
病原菌やウイルスが体内に入らないようにし、入ったものは排出しようとし、また粘膜ごと剥がれて排出します。
3.白血球が運ぶ貪食細胞など
白血球の一種である好中球は病原菌を捕食し、マクロファージも強力な捕食をします。
4.リンパ球に含まれるNK(ナチュラルキラー)細胞やキラーT細胞の攻撃
本来の自分の細胞と異なるものを見つけて攻撃する細胞性免疫です。
5.B細胞、T細胞による専門の抗体生成
これまでの免疫機能で対処できない場合に、その細菌やウイルス専用の抗体を作ります。
6.ヘルパーT細胞による免疫機能の統率
マクロファージが貪食した抗原の断片はヘルパーT細胞に差し出され、抗原の種類によってヘルパーT細胞はTh1細胞とTh2細胞に分かれます。Th1細胞は細胞性免疫を活性化させ細菌やウイルスに反応し、Th2細胞は液性免疫を活性化させ抗体を産生させます。
7.ワクチン
免疫には、一度感染した病原体を覚えて、二度目の感染を防ぐというしくみがあります。病原体をやっつけた後も、T細胞とB細胞の一部が病原体の特徴を覚えていて、次に同じ病原体が入った時にすばやく攻撃できるように備えています。ワクチン(予防接種)は、体内に抗体を作るために、病原体の毒性を弱めたり、無毒化したりしたものから造り出したものです。
C.免疫力を強める為には
免疫力と体力を混同している方が多いようです。筋肉を付けることや体力を付けることは大事ですが、それに集中するあまりに免疫力を弱めている方も多いようです。体力を付けようとして運動をするのは良いのですが、その運動に必要なエネルギーや休息、筋肉形成に必要な十分なタンパク質や栄養素を摂らないと、運動によって免疫細胞などを造り出す栄養素を消耗して却って身体を弱くしてしまうこともあるのです。
1.適切な体組成 (クリニックにある体組成計を活用してください。)
筋肉と脂肪の量が適切な体組成は、健康や免疫力の基本です。ウイルスや細菌が体内に侵入することへの最初の防御は、皮膚や粘膜などの上皮細胞です。皮膚の表面の油が少ないと、そこからアレルギーを起こす物や病原菌が侵入します。理想的な体脂肪率は、年齢にもよりますが男性11~24%、女性21~37%です。脂汗が出るのは、細菌感染に対しては強いのです。それ以上太ると急激に免疫系を悪くします。痩せすぎの場合も免疫力は低下します。最近、痩せようとし過ぎる人が多いようです。
筋肉量を増やすことは免疫系強化に役立ちます。高齢者は消化吸収力が低くなっているために、消化吸収が難しいタンパク質を十分に摂ることが困難になります。肉や魚を十分に食べていない人は殆どタンパク質不足です。筋肉を増やそうとすると免疫細胞の原料となるタンパク質が不足するので、過度な運動は控えたほうが良いでしょう。大豆プロテインなど良質で消化の良いものを摂ることが必要です。高齢者も女性も、筋肉を付ける為には十分なタンパク質摂取が必要であり、期間を掛けてゆっくりと取り組んでください。
骨量も大事です。女性はホルモンの分泌が減ると骨量が低くなりがちです。骨折や腰痛なども健康を損ない、回復に手間取ります。骨量の低い人は、精神安定に寄与するカルシウムが不足していることもあり、ストレス対処が苦手な場合があります。
2.適切な食習慣
偏食は不健康の兆候です。不健康な食生活をしながら健康に良いサプリメントを摂取しても相殺は難しく、そういう状況で痩せようと過激な運動をすると、身体を壊します。失礼ながら、免疫力以前の問題です。腸内環境も免疫力と大きく関わっています。腸内環境を改善する善玉菌や食物繊維などを十分摂取し、お腹を冷やさないようにしましょう。
3.適切な運動と休息
足がむくんでいるということはリンパの流れが悪いということです。筋肉がないとリンパ腺を刺激してリンパを流せないためにむくんでしまいます。がんは嫌気性なので、酸素がいきわたらないところに発生します。血液やリンパは免疫細胞を届けるので、流れがうっ滞すると免疫力が落ちるのです。糖尿病は血液中の糖分が多い為に、血液の流れを滞らせるだけでなく糖化作用により、細胞を老化させるという弊害を持ち、健康や免疫力の為には治療をきちんとすることが大事です。糖尿を改善するためには事を減らすというよりも、ゆったりとした運動を続けることが有効です。動くということが、血糖の代謝、血流やリンパの流れの促進、そして筋肉のためにも必要であって、怠惰は健康に悪いのです。
日本人は休息をとるのが下手です。仕事をしないのが休息ではなく、食後2-3時間で間食を摂り、水分を補給し、できれば横になって身体をくつろがせることが大事です。動けなくなるまで働くと、身体にはダメージとなり、回復するまで時間も力も掛かります。自律神経失調になった人は、ご自分では普通だと思っているけれども、無理や過労、休息を取らない、食間が長い、などの理由で体調を崩しているのです。ぬるめのお風呂にゆったりと入って身体を温めると免疫力が高まります。
4.適切な人間関係
新型コロナウイルスの弊害は、自律神経や精神に悪影響を与えています。感染を恐れて外に出ない、人と会わない、運動もせず、食事も簡易に済ませてしまう、そんな生活を長く過ごすと間違いなくストレスが高まり、体調を壊し、人間関係も悪くなります。ストレスに対応するために、人はホルモンを出して緊張します。その分泌が続くと身体は消耗していきます。
笑うと免疫細胞の一つNK細胞が活性化するという報告があります。精神にも良い効果をもたらします。感染を恐れて人と会わずにいてうつ状態になった人が、屋外で人と話しながら食事をしたら、すっかり元気になりました。免疫力は、心の状態とも大きな関りがあります。
5.適切な栄養素補給
免疫細胞を造り出すには、その材料となる栄養素の十分な供給が必要です。
タンパク質 | 免疫細胞、抗体などの主成分 |
グルタミン | 免疫細胞のエネルギー源 |
ビタミン A | IgA 抗体の産生、粘膜や上皮細胞の正常化 |
ビタミン B 群 | 感染により白血球が急増するとビタミン B1 が大量に消耗する |
ビタミン C | マクロファージの遊走能向上、キラーT 細胞の活性が高まる |
ビタミン D | 免疫物質の分泌に関わる |
ヘム鉄 | 粘膜の機能維持、免疫細胞の強化、線毛運動の活性化 |
亜鉛 | 粘膜や上皮細胞の合成、亜鉛不足だと胸腺やリンパ系組織の萎縮が起こる |
水溶性食物繊維 | 有用菌のエサとなり、腸内環境を整える |
そのほか | プロバイオティクス(善玉菌)、オリーブ葉エキス、ラクトフェリン、βグ ルカン、フコイダン |