人間の健康、健全とは

- マリヤ・クリニック・ニュース 2020.5(No.301)より -

人類の歴史では、ペスト・チフス・天然痘などの感染症によって、身体の免疫力では対抗できないような疫病によって多くの破壊的なダメージを受けてきました。それでも、生き残ったのは免疫力の強い人々であり、或は状況や環境によって感染しなかった人々です。

現代人は、温度・環境・交通手段・住環境の改善によって、昔に比べてかなり快適な生活を過ごせるようになってきました。東海道は492 キロですが、昔の人は14 日ほどで歩いたそうです。一日35キロですが、1 時間4 キロとしても一日9 時間も歩き続けたわけです。1700 年頃の日本の人口約2700万人のうち330 万人から370 万人が日本各地からお伊勢参りをしたということですから、当時の人の健脚ぶりに驚かされます。江戸から片道15 日、大阪から5 日、岩手から100 日掛かったそうです。現代人でこれだけ歩ける人がどれだけいるかと思います。江戸病と言われる脚気は、エネルギー代謝に必須なビタミンB 群を含む胚芽を取り除いた白米を食べていたことから起こりました。当時でも、偏食や極端な嗜好性は身体を弱らせていたのですね。

汗を掻かないエアコンの快適な環境に育ったので汗腺が少ない人も多く、暑さ寒さの調整能力が落ちているようです。除菌剤や除菌スプレーなどによって、細菌が少なくなり、免疫力も落ちてきてるようです。軟らかい物ばかりを食べていると歯の噛む力も顎も弱くなり、消化力が弱くなったりします。アメリカに行くと冷房の強さに震え上がりますが、アウトドアをしていた時には氷点下になる夜中の集会でもT シャツで平気な人々に驚きました。彼らは、医者に行ったことがないと自慢していましたが、保険医療が定着していないことを感じさせられました。健康に注意する人々はサプリメントの摂取を心掛けていましたが、基本的に医療機関に受診するという習慣はあまりないようでした。車社会であり、歩くという習慣がないので、足腰の弱い人が目立ちました。

今回のウイルス感染では、アメリカも大災害となりました。身近に医師や医療機関が存在せず、広大で豪華な病院は、どのように機能しているのかと危惧しています。日本では、身近な診察は体制がっていたのですが、集中治療室ICU が不足していたり、人工呼吸器ECMO を操作ができる医師が不足していたり、これまでと異なる症状をもたらす感染症に苦闘しています。そして、懸命な医療処置にも拘わらず回復せず、死んでしまう人々がいる現状に困惑しています。しばらく前まで元気にしていた人が、感染によって突然亡くなられたという報道などによって、これまでの健康という概念が揺らいでいます。そして、これまでの医療の状況・方針・治療法を全く再検討しなければならなくなってきています。

「未病」について研究する日本未病学会があります。未病は、中国最古の医学書とされる『黄帝内経』に見られる言葉で、「病気に向かう状態」を意味します。貝原益軒の『養生訓』には、「聖人は未病を治すとは、病いがまだおこらざる時、かねてつつしめば病いなく、もし飲食・色欲などの内慾をこらえず、風・寒・暑・湿の外邪をふせがざれば、其おかす事はすこしなれども、後に病をなす事は大にして久し。内慾と外邪をつつしまざるによりて、大病となりて、思ひの外にふかきうれひにしづみ、久しく苦しむは、病のならひなり。」とあります。現代語訳では、未病という単語は使われていません。

日本未病学会の資料では、「自覚症状はないが検査では異常がある状態」と「自覚症状はあるが検査では異常がない状態」を合わせて「未病」としています(図:未病の概念)。そして「病気」とは交叉部位である「自覚症状もあるが検査でも異常がある状態」としています。未病は、以下のようにM-ⅠA、ⅠB、ⅠC、M-Ⅱに分類されます。

図:未病の概念(日本未病学会 Y.Fukuo 2000)

M-Ⅰ 自覚症状はないが検査で異常が見られ、放置すると重症化するもの
 A. 検査(一般)で異常があるもの
 B. 特殊検査で異常が見られるもの
 C. 遺伝子レベルで異常があるもの

M-Ⅱ 自覚症状はあるが検査では異常がないもの

「元気に仕事をしている。」、「普通に暮らしている。」ということが、健康とは限りませんが、多くの方は、発病しなければ健康であると考えています。実際には、病気になってしまうと、回復には時間が掛かり、身体の負担も大きくなります。柏崎院長著『新・栄養医学ガイドブック』でも説明していますが、外部環境が変化しても体内の調整機能が働くことによって、身体の状態が一定に保たれるホメオスターシス(生体恒常性)という働きが身体を守っています。そのホメオスターシスが乱れ、崩れると発病します。

そのホメオスターシスを支えるのは、栄養・運動・休養ですが、最も大事なものが栄養です。車も電車もエネルギー源がなければ動かないのと同様です。そして、このホメオスターシスが保たれていれば、細菌やウイルスなどの病原にも対抗できるのです。しかし、そうはいっても、身体の弱い人、病気の人、高齢者や乳幼児などは、ホメオスターシスが強くはないので、いろいろな予防手段が取られるわけです。しかし、欧米では、風邪やインフルエンザに対しても、ワクチンや薬などを使わないで休息と栄養だけで治そうとする傾向が強いです。日本の環境管理や薬剤・ワクチンによる健康志向も限界、欧米の体力・免疫力勝負も今や限界、私達はどうしたら良いのでしょうか。

聖書には、「あなたがたの霊、魂、身体が完全に守られますように。」(Ⅰテサロニケ 5:23)とあり、人間という存在が、霊と魂(心)と身体からなるとされています。私には、この霊という分野が現代社会では完全になおざりにされていると感じています。皆さんの宗教や価値観とは違うかもしれませんが、キリスト教の考え方というものもご理解ください。聖書では、「土地の塵で人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。」(創世記2:7)とあり、人間はサルが進化したものではなく、神が霊を吹き込まれた霊的な存在であって、単なる動物ではない、と教えています。霊的とは、人格的という意味であり、そこには愛するもの、信じるもの、犠牲を受け入れるもの、などが含まれてきます。

もし、私達人間が動物の進化しただけのものであるならば、弱肉強食で死んでいっても価値のないものであり、他人を蹴落としても生き残ることが大事なこととなります。損得勘定も、快楽主義も、更には不倫や犯罪をも、なんらかの理由をつければ正当化されるものとなります。家族が愛し合うことが、成功するための成果主義的な理由であれば、それをも負担になります。外出自粛で家庭内暴力やストレスが増えているようですが、日本人古来の素朴な労わり合いも、自己満足のものとして意味のないものとなるかもしれません。人間が霊的な存在であるとすれば、その霊性を高め、健全にする努力と節制をしなければ人間らしく生きられないものです。なぜ、芸術を喜び、自然を喜び、愛する人を求めるのか、自らの霊性の健全性を高めることを価値あることとすれば、信仰が人生の基本であることがわかると思っています。真実に宗教を持たない人々が殆どである日本が、これから起こるであろう多様な試練や災害に対応できるような気がしません。

魂には、知性、感情、意思があるとされます。クイズ番組が相変わらず流行っていますが、人工知能 AI が進んでいく未来には、知識を競うことは意味がなく、人間に必要なものは魂の分野のこととなります。日本の暗記教育、知識を覚えることでは魂は成長しません。知性を磨くために知性同士がぶつかり合う友人知人指導者が必要です。感情を高め細やかにするには芸術に親しみ、親密な人間関係が必要です。意思があるからこそ、患難に耐え、誤解や攻撃にも怒らず、努力を重ねて誠実な人間になろうとするのです。日本に、このようなことを大事にする風潮が豊かにあるようには思いません。遊ぶことで知恵を付ける幼年時代を勉強に明け暮れさせ、良い大学に行くために青春を犠牲にし、愛し合うべき青春時代を仕事漬けにして、人間性が成熟することはありません。二兎を追う者は一兎をも得ず、勉強よりも、学校よりも、仕事よりも大事なものがあるのに、それを捨てた人生が幸せに繋がると思っているのが日本の家庭であり、社会です。日本の将来はどのようになるのでしょうか。

成果の為に身体を酷使するならば、その代償は大きなものとなります。働かなければ食べていけない、と言いますが、それは戦後日本の価値観です。戦後世代の指導者たちは、経済成長至上主義をもって組織に忠実で勤勉な労働者を生み出す教育をもって日本の経済成長を担ってきました。しかし、そのような労働者の仕事は今や AI ロボットに替えられてきています。人気のシステムエンジニアも 40代になると激務に耐えられなくなり、営業職も外歩きをしても邪魔にされるだけとなりました。仕事の内容が変わっているのです。経済成長期に「24 時間戦えますか!」などという異常なキャッチフレーズをもって発売した栄養ドリンクは、過剰なカフェインや糖分の摂取によって身体を消耗させてしまうことがわかってきているのにも関わらず、今でも多く売れています。

カフェインの摂取は欧米では制限されています。農林水産省の「カフェインの過剰摂取について」という欄では、「カフェインは、神経を鎮静させる作用を持つアデノシンという物質と化学構造が似ており、アデノシンが本来結合する場所(アデノシン受容体)にとりついてアデノシンの働きを阻害することにより神経を興奮させます。コーヒーは、適切に摂取すれば、がんを抑えるなど、死亡リスクが減少する効果があるという科学的データも知られていますが、カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。長期的な作用としては、人によってはカフェインの摂取によって高血圧リスクが高くなる可能性があること、妊婦が高濃度のカフェインを摂取した場合に、胎児の発育を阻害(低体重)する可能性が報告されています。」とあります。

私たちは、もっと身体を労わり、人生を味わいながら生きる必要があります。阪神淡路大震災、東日本大震災に救援に行き、昨年の台風被害も災害対策を手伝いました。コロナウイルス感染も大きな災害です。感じることは、助け合う人が都会になるほど少なくなってきているという印象です。間違いなく、日本経済は大打撃を受けました。これからの社会状況は大きく変化していくでしょう。

2019 年 12 月にアフガニスタンで銃撃されて死去した中村哲医師は日本キリスト教海外医療協力会からパキスタンのペシャワールに派遣された医師ですが、医療活動をしながら更に激しい困窮地アフガニスタンへと移住したのです。アフガニスタンでは、限りのない医療活動の解決には生活の安定と教育の充実が必要であると判断して、灌漑を進めてクナール川から 25 キロ以上の用水路を建設し、また学校を始めました。そればかりでなく、キリスト教徒なのに、モスク(イスラム教の礼拝堂)やマドラサ(イスラム教の教育施設)を建設したのです。自らの宗教にこだわらないで宗教者として地域の人々に貢献した歩みは、公衆衛生の判断もされたうえでのことです。

マリヤ・クリニックは、低血糖症の治療を通して精神症状が血糖値の急激な変動に由来する可能性があることを提唱してきて 33 年、今では健康上の常識として医師や栄養士の指導だけでなく、食事の摂取方法にも取り入れられてきました。2007 年から発達障害の治療を始め、腸内環境の改善と精神症状が関係することを発表してきました。その後、治療を進めていくにあたり、食物アレルギーと発達障害の症状に影響していることが判明し、発達障害に関する本の出版と共に食物アレルギー対策も提唱してきました。2020 年の今年からは、学校給食における食物アレルギーの対策不足、発達障害や遅延型アレルギー治療において大きな柱となる完全除去食をしっかりと進めるために、アレルギー対応食の販売を始めました。

今回のコロナウイルス災害では、このような栄養的・医学的対策や社会的啓発では間に合わない、アフガニスタンにおける中村医師のような宗教や生き方に根差した対策や啓発が必要であると感じています。既に、アレルギー対応の給食はないがしろにされています。今後は、障害者や障害児童そして高齢者がないがしろにされてくるでしょう。強くなければ人を助けることはできません。災害や困難に備えて、全人的な健康・健全さを確保していきましょう。

< 体調の悪い方、熱のある方、コロナウイルス感染を懸念する方 >
① 電話で当院に相談してください。
② ホームページで、オンライン診療、Web 問診、電話再診のやり方を知ってください。
③ 来院時には、表の通路横にあるインターフォンで受付スタッフを呼び出してください。
④ 受付後、マスクを付け、他の人に配慮して、2 階の第 2 待合室に直行してください。
⑤ スタッフの指示に従い、トイレなどを利用した時はその旨を伝えてください。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です